カリカリ梅こんぶ

文句言って逃げる人生

ソシャゲライタークオリアちゃん~大学とカフェと銭洗弁財天と~

今更だが、2016年に発売されたソシャゲライタークオリアちゃんを読んだ。
手に取った理由は単純で、自分が最近文章を仕事にし始めたからである。
この本で語られるような無茶ぶりをしまくり、無理難題を押し付ける鬼ディレクターではなく、菩薩のように優しい編集さんに分かりやすい手解きを受けながら副業として文章を生産することを始めたわけだが、文章の仕事にも沢山のジャンルがあるわけで、自分にとって「ソシャゲライター」は未知の世界だった。

シナリオライターのハウツー本はあれど、ソーシャルゲームのみに焦点をおいた本はこの本が出てから2年経つが、まだ出ていないだろう。
ハウツー本の需要がないのか、ソシャゲライターを志す人間があまりいないのか、とにもかくにもこの本しかなく、そしてそれが奇しくも自分にとって因縁のゲームを作った協力者の本だった。

全体としては、小説としては目もあてられない残念なレベルだけれど暴露本・ハウツー本として見ればまあ成り立つんじゃないんですかねって感じ。
でもこれに金払うんだったらフツーに著者のTwitter見てりゃよくね?なんか普段から熱くTwitterでも色々と語ってるし。

内容は、主人公がソシャゲライターのヒロインと出会ったことで彼女を手伝っていくうちにだんだんとシナリオを書く楽しさ、作る熱意を覚えていく流れ。
ヒロインの親族は全員特殊能力を持っていてそれをシナリオ製作に生かしている。
彼らが語るのは、ソーシャルゲームシナリオを作る際の苦労や熱意、そして金銭の問題や無茶ぶりや無理難題を振ってくる制作会社に対する愚痴や疑問などなど。
ソーシャルゲームシナリオ界隈の裏を語るラブコメライトノベルである。

暴露本として
ソーシャルゲームシナリオライターが、安い報酬ながらも、鬼のようなディレクターからの無茶ぶりに答え、泥水啜りながらも熱意をもってやっていることが窺うことが出来るだろう。ソシャゲの特徴である短いが濃厚なストーリーにいかに熱量がこもっているかが分かる。

ハウツー本として
それでは、ハウツー本としてはどうだろうか。これは、自分にとっても大切なことだった。
答えとしては参考になる部分が霞むというか印象に残らないというか……。
うーん、参考にならなくない?え、これ、なる?なるの?ならなくない?
だってこれさ、シナリオ書くことを登場人物の特殊能力で解決しちゃってるじゃん?

締切間に合いません!→ヒロインの時間操作で締切前に戻って解決☆
登場人物の気持ちを汲み取って文章にしたい!→ヒロインの妹のキャラクターなりきり能力でキャラの設定から場面と気持ちを再現☆
プロットをうまくたてたい→ヒロインの弟が独自の洞察力ともろもろであっという間にプロットをまとめちゃうぞ☆

いやそこ能力で解決しないで教えてくれよ。
ヒロインの親族だけでシナリオが作れてしまうのは小説という観点からみても致命的で、主人公はソーシャルゲームシナリオの書き方を理解するところで成長が止まってしまう。
あとの不足してい部分はヒロイン長男の特殊能力と主人公が持っている能力でなんとかしているのだ。
そう、主人公も「能力もち」なのである(とは言えタイムリープなどの特殊能力ではないが)
主人公もまた、今迄に触れてきた名作の名言約5万個を駆使して物語を作る「普通の人間」である。
ハウツー本と言うのは、キャラの掛け合いというやり方をとるにしても、底辺レベルな人間がプロの技術を教わってなんとかしていくのがセオリーだろう。
しかし出てくる登場人物は、書く技術の他にもなんかクソくだらない能力があるし、学ぶはずの主人公がキーとなって今までヒットした作品(シュタゲだのひぐらしだの)の台詞をパク――ヒントに、ここはこうするのがいい!とか言っちゃうから、パロディの元ネタを知らない読者は勿論、ハウツーとして読みたいであろう読み手も置いてきぼりを食らう。
いやいやハウツー本なのに読者置いてきぼりにすんなや。

コンシュマーゲームやPCゲームとは違う書き方、ポイントがあるということも述べているが、残念ながら登場人物達が使うクソくだらない能力を使うことがないので重要な部分がいらない味付けのせいで霞んでいるような印象を受ける。

作品を作るシーンで印象に残っているのは上記した能力を使うシーンなのだが、締切を守るなんて8月31日の小学1年生ですら分かる当たり前のことなのだから流石に著者もそこら辺は教えるつもりで書いたということはないだろう。
キャラの気持ちなんてものも作る人からすれば当たり前だしプロットをクライアントに分かりやすいようにまとめることが大切なんてこともシナリオライターを目指している文字書きにとっては当たり前のことなのでは、と思うのでここら辺は全て物語の演出だと思うことにした。

しかし、霞んでいてもソーシャルゲームのシナリオ、そして短いシナリオを作るポイントやコツはしっかりと書かれているのでソシャゲライターになりたい人は目を通しておくのは良いのではないだろうか。
まあ金銭面でかなり苦戦してる部分も一緒に読んでなりたいと思う人がいるか分からないが。

小説として

小説として、は、どうだったか。

一言で言えばクソだと思った。様々なことが矛盾しすぎていてつっこむのも疲れるレベル。
なんで小説にしたの?普通に暴露&シナリオ書き方本として出せばよかったじゃん?
特に、ヒロイン周りがとりあえず酷すぎる。
能力がどうこうは散々他の感想で言われてる通り必要なかったと思う。
特殊能力うんぬんよりも、気になったのは登場人物の思考回路だ。

ソシャゲライタークオリアちゃんの登場人物は、周りのことが見えない視野の狭い独り善がりな頭お花畑ちゃんしかいない。
普通を主張する主人公も全然普通じゃない。

しかし、それは仕方がないとおもうことにした。
彼らが存在する世界は登場人物しか出てこないご都合主義の箱庭の世界として書かれているからだ。
ならみんな頭シンデレラ体重なのも仕方がない。

ヒロインの両親はすでに他界している。コミケでコスプレしてたら両親熱中症で死んじゃいました☆
おかげでヒロインのお家は兄弟四人の超貧乏なお家です☆
著者、いや、この世界にとっては、コミケで死者が出ても自分のやりたいことが全うできたなら許されるらしい。
コミケで死者が出るということは勿論大問題だがそんなことはこの世界には関係のないことなのだ。

そしてこんな馬鹿げた死因を美談にしている頭お花畑のヒロインその他兄弟はパパとママがだいちゅきでだいちゅきたまらない。
自分だったらコミケでコスプレして熱中症で死んだ親なんて愚かすぎて愚かすぎて表に出られないレベルだがここの登場人物は倫理観が死んでいるから問題ない。
倫理観どころか生きるという思考すらもガチで死んでいるからめちゃくちゃ貧乏なのに、誰も来ないカフェを経営してるし、散々報酬が低いと愚痴っているソシャゲライターを続けている。

ヒロインは兄弟で経営してるカフェスペースで日々執筆をしているのだが、そりゃ変態(と実際描写されていた)ボディースーツ着て必死の形相でパソコン叩いてる痴女のいるカフェに入ってくる奴など変態しかいないだろう。それくらい誰だって分かるだろうが、この世界にはヒロインと主人公とヒロインの家族しか存在しないから誰も突っ込んでくれない。

ソシャゲライターを続けるのは死んじゃったパパママの跡継ぎでヒロインが熱意をもってやっている。
だからみんなで「シナリオの制作」を手伝っている。
いやいやいやいや!そっちじゃなくて生活するのを手伝ってやれよ!?
妹の設定があれば超人レベルの演技が出来るってそれ芸能界行けるって!!設定の掘り下げがないから能力使えないやとかいう場面あるけどじゃあそれドラマとか脚本あるしいいんじゃない!?おすすめするよ!?
主人公もライターになって大好きなヒロイン助けたい!お金稼ぎたい!とか言ってるけど普通に働いた方が養えるからね!?

でも仕方がないのである。
この世界には、時間操作が出来る人間がいても、次元を切り開ける人間がいても、公務員も会社員も芸能界も存在しない箱庭の世界なのだから。
主人公はソシャゲライターにしかなれないのである。
この世界には、大学とカフェabcdと銭洗弁財天しかないのだから。

自分が読んでいて一番驚愕したのは、このソシャゲライターをやっているヒロインが、貧乏だからスマートフォンを持っていないのである。つまり、ソシャゲをプレイしていないのである。
そ、そんなやつから教わりたくねぇー!!!
なんなんだこの設定。意味わからんぽよ。
やってるのはもっぱらパソコンのギャルゲエロゲである。もうギャルゲーの書き方講座でもやってろよ。

でも仕方がない!!!この世界ではソシャゲの話を書くことしか出来ないのだから!!!

登場人物の狂気的な思考や行動を除くとあとは地の文と台詞しか語るところがないのだがここも褒めるところがない。
著者いわく名作の台詞のオンパレードである。
名作というかヒット作な気がするが。
ひぐらしのなく頃に、とかシュタインズゲートとなクロスチャンネルとか。ひぐらししか知らんけど。
あ、なんかメモオフってやつもヒロインに熱く語らせてたな。ちなみにソシャゲじゃないですギャルゲーです。そしてこれはソシャゲに纏わる本です。

正直台詞ひとつ出されたところでだからなに?としか言いようがない。
自分はてっきり、作品名と台詞を出し、ここがよかったから活かせる、ここがよかったからヒットした。こういうところを参考にするのがよい。とかヒットした経緯や参考事例を述べる話に展開するのかと思ったがただ登場人物に言わせているだけである。
残念ながら自分は全うなオタク業をまともにこなしてきたオタクではないのでヒット作品としてあげられたのでピンときたのはひぐらしだけだった。
そのため、パロとかオマージュがクソほど嫌いなのもあり萎え萎えだ。

これらに関して何が言いたいのかというとさ、もうこういう自己満足オナニーはTwitterなりブログなりでやれよ。

作中にメモリーズオフという作品の聖地にいって作品を熱く語るシーンがあるがそれがただ聖地巡りするだけでメモリーズオフがソシャゲを書くにあたり参考になる部分など全く語られない。
じゃあここいらなくない???まじで……ハウツー本なんでしょ?暴露本なんでしょ???
ただメモリーズオフあげしたいだけじゃん。ソシャゲになんの意味も持たせられないなら出すなよ。
そんなにメモリーズオフに関わりたいならTwitterで媚売ればいいし制作会社行って膝をついて感謝を述べればいい。
自分のオナニーを読者に見せつけまくってるのだ。
まあヒロインもボディースーツ着てカフェで執筆する痴女だし仕方ないのかもしれない。

総合するとソシャゲライタークオリアちゃんは箱庭世界で自分の言いたいことを言いたいだけ言い切った著者の自己満足オナニー本なんだと思う。
読後は、エロゲ特有の絶倫主人公のエロゲ特有の大量ザーメンを全身に浴びた感覚だった。ザーメンシャワー初体験である。

これを読んで学んだことと言えば、自分も文章の仕事をする際には自己満足オナニーしないようになろうと思えたことぐらいだ。
自分がこんな作品を書く前に、気づけたことに感謝すべきか。